サイトリーディングというのは日本語では初見という意味です。初めて見る楽譜から即座に、あるいは与えられたほんのわずかな時間内で弾けるようにすることです。
以前日本で習っていて、転勤でイギリスに来た生徒がいました。彼は曲を弾かせれば抜群にうまいのですが、初見が得意ではありません。日本で習っていたときは、初見をしたことがない、といいます。イギリスのグレード試験に初見の課題は必ず入っていますし、学校の入学試験等にも含まれていることが多いので、その生徒に「何故イギリスでは初見なんてものをしなければいけないのか?必要ないのではないか?」という質問をされたことがあります。
日本の音楽教育では、初見の能力は一般に軽んじられているのかもしれません。ですが、音楽家として生きていく上で最も重要な能力の一つだと思います。年に一度しかコンサートをしないとか、たまにひとりでしか演奏しないならともかく、誰かと「仕事で」演奏する場合には誰も譜読みする時間など待ってくれません。ひとりだけ何日も練習しなければいけないとしたら、クビになってしまうでしょう。オーケストラの年間のコンサートプログラムを見てみてください。毎コンサートでほとんど違うプログラムを弾いているはずです。各コンサートにつき、一体何回のリハーサルを取って練習することができるでしょうか。
前述の生徒は最近、某音楽大学のコースに入り、イギリスで教育を受けてきた生徒とクラスを受けていますが、みんな読譜が速いため、ついていくのが大変だといっていました。弦楽器専攻だとカルテットやオーケストラの授業がありますが、その場で即座に弾けるのが当たり前なのです。
私達の例でいえば、教室で教える仕事をしていると、私達の知っている曲ばかりを生徒がもってくるとは限りません。タイトルすら聞いたことも見たこともない曲ということもあります。そういうときに、生徒が一度弾いている間に楽譜を全部読んで、どこがポイントで何を指導するかを考えるわけです。率直に言えば、指導を行う際には、演奏能力はもちろん必要ではありますが、読譜力と音感はより大切になってきます。