2025/12/05

クリスマス音楽から学ぶ文化教養

今年もクリスマス会を企画しています。前回の子どもの部では、イギリスの学校などでは必ず取り上げるキリスト降誕の物語(Nativity)の紙芝居を行い、クリスマスの本来の意味について触れる機会となりました。今年は「十二夜(Twelve Days of Christmas)」——クリスマスから公現祭までの12日間——をテーマに、さらに深くクリスマスの世界を探求していきたいと考えています。

さて、クリスマス会の準備を進める中で、何人かの中学生の生徒とクリスマスの曲について話をする機会がありました。「どんなクリスマスの曲を知っている?」と尋ねてみたところ、生徒が答えてくれたのは、トナカイやサンタクロースが登場する曲ばかりでした。「赤鼻のトナカイ」「ジングルベル」「サンタが町にやってくる」など、楽しくて親しみやすい曲たちです。

もちろん、これらの曲も素敵なクリスマスソングです。しかし、イギリスやヨーロッパでは普通に歌われているキャロルや讃美歌、たとえば「きよしこの夜」や「もろびとこぞりて」などについては、あまり知らないという反応が返ってきました。

もちろん生徒によって知識の差はあると思いますが、この会話から、日本におけるクリスマスの受容のされ方について考えさせられました。日本では、クリスマスは楽しいイベント、プレゼントをもらえる日、ケーキを食べる日として定着しています。サンタクロースやトナカイといった、ファンタジックで視覚的にも楽しい「お祭り」の要素が前面に出ているのです。

一方で、クリスマスの本来の意味や、その背景にある文化的・宗教的な物語については、触れる機会が少ないように感じます。クリスマスの核心を歌う讃美歌や聖歌は、意外と知られていないのが現状なのかもしれません。

ここで考えたいのは、クリスチャンであるかどうかに関わらず、クリスマスという文化的イベントを理解することの意味です。

クリスマスはヨーロッパをはじめ、世界的に最も大きな文化的イベントの一つです。日本においても、クリスマスはすでに大きな年中行事の一つとなっています。街はイルミネーションで彩られ、様々な商業施設でクリスマスイベントが開催され、多くの人々がこの時期を楽しみにしています。それほど大きなイベントであるならば、その起源や本来の意味について、少なくとも教養として知っておくことには価値があるのではないでしょうか。

日本では、クリスマスという文化イベントがあまりに商業主義に傾いているため、本来不可分である音楽が切り離されて受容されているように思えます。降誕の物語、その喜びや厳粛さを表現する讃美歌やキャロルは本来クリスマスという文化イベントと不可分なものです。ところが、トナカイやサンタクロースの曲だけが広く知られ、核心を歌う音楽はあまり知られていない。これは、文化との深い繋がりを知る機会が少ないことの表れなのかもしれません。

音楽を学ぶということ

ここでさらに深く考えてみたいのは、私たちが日々触れているピアノやギターという楽器そのものについてです。これらの楽器とそのレパートリーは、西洋で生まれ、発展してきたものです。私たちが手にしている楽譜やその記譜法のシステム、演奏している曲、そこで扱う技術は、西洋の文化や歴史、思想や宗教とは決して切り離すことができません。

音を表面的になぞることは、練習を重ねれば誰でもできるようになりますし、もしかするとコンクールやコンペティションには勝てるかもしれません。しかし、そもそも音楽は指の俊敏を競う競技などではありません。その音楽を本当に深く理解し、表現するためには、その背景にある文化、歴史、そして物語を知ることが必要です。

幅広く分厚いレパートリーを持つクリスマスの音楽は、まさにその入り口として最適な題材です。なぜこの曲が生まれたのか、どんな思いが込められているのか、どのような文脈で歌われてきたのか。そうした周辺の知識を含めた教養があってこそ、音楽は単なる音の羅列ではなく、意味を持った表現となります。

楽器を学ぶということは、技術を磨くことだけではありません。その楽器が育まれてきた文化的な土壌を理解し、豊かな背景の中に音楽を位置づけることができるようになること、その上で自分がそこにどのように関わっていくかを考えることです。それが音楽を学ぶ人間のほんとうの文化的成長ではないでしょうか。




0 件のコメント:

コメントを投稿