ABRSMのミュージックセオリー試験の過去問題を2006年から持っていますが、年を追うごとにセオリーの試験内容が徐々に単純化し、簡単になっているように感じます。この傾向はセオリー試験だけでなく、楽器の試験にも同様に見られます。昔のレパートリーの方が、現在よりも難易度が高く設定されていたように思われます。このように試験内容が単純化される真意は推測するしかありませんが、教育的な理由よりもビジネス上の理由が背景にあるのではないかと疑っています。
さて、セオリーのグレード5の2018年度の変更が発表されています(参照:What’s changing and when)。今回の主な内容的変更としては、下記のようなものが挙げられます。
・音楽用語と音楽記号の問題が選択制になる
・音程の質問形式が単純化
・質問7(ケーデンスポイントでの和音)の形式が単純化(和音の記述にはローマ数字のみを使用)
・メロディライティング、ワードセッティングの質問、 SATB short/open scoreの質問が削除
このなかでも最も大きな変更としては、最後の「作曲」の削除ではないでしょうか。今まで作曲がこのセオリーのシラバスの、あるいはこの音楽教育の体系の一つの要であり、また、日本の多くの教育法との一つ大きな差異であったと思っていたのですが、消されてしまいました。一応グレード6−8には残されているとはいえ、グレード5でストップする生徒も多いので、これで日本の教育と同じように全く作曲に触れることも無く進んでいくことが事実上可能になりました。コードの部分を除けばおそらく日本の楽典以下のレベルに落ちたと言えるでしょう。残念なことですが仕方ありません。試験では他の項目の比重が上がるため、パスしやすくなったとは必ずしも言えませんが、生徒が必要とされる領域は確実に狭くなりました。おそらくいくつかの項目はそのうちにテキストブックからも削除され、目に触れることもなくなるでしょう。少なくとも自分の生徒には単なるテスト対策ではない、出来るだけ包括的で、意味のある知識を与えられるよう指導して行きたいと思います。
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