2026/08/09

「ギターの音っていいなあ」

オンラインのレッスン中、最近はじめたばかりの初心者のギターの生徒が、課題の曲を練習している最中にふと手を止めて、このように言われました。

「ギターの音っていいなあ」

難しいフレーズをクリアしたのでも、速く弾けたのでもありません。ごく単純な課題曲でした。けれども、その方は自分の手元から溢れる「音そのもの」に、深く耳を澄ませていたのです。

思い返してみると、私自身も人生で初めてギターを触り、弦をつま弾きながら、全く同じことを感じたものでした。まだ何も弾けず、曲にもならない。でも、ただ弦を弾いて、そこから立ち上がる響きを聴いているだけで、「ギターってなんていい音だろう」と飽きることなく、いつまでも聴き入っていたのを覚えています。

私たちは、楽器を高度に操作して美しい「音楽」をつくることに集中しすぎると、楽器は「音楽を作ることを目的とした道具」である以前に、「それ自体で美しい音を出す装置」なのだということを、つい忘れがちかもしれません。

もちろん上達を目指すことは素晴らしいことですが、「上手く弾けないから」とか「複雑な曲じゃないから」価値がないなどと思う必要はまったくないのです。たとえ指一本で鳴らした一音であっても、そこに耳をすましてみれば、それ以上なにも付け加えることがないほどの完成された世界があります。

自分と楽器のやり取りの間に生まれる響きを、深く味わうこと。それは「表現」というよりは、もっと静かで豊かな「体験」です。

技術を磨いていく過程でも、最初に楽器に触れて音がでたときの、あの純粋な感動をわすれないようにしたいものです。その「いい音だなあ」という実感こそが、何よりも音楽を支える根っこになるのですから。